ずるい想い

三成がおねね様への想いを馳せていたのは知っていた。
しかし知らぬ振りをし、おねね様にお慕い申していたのは俺の方だ。
初めは母と思い、その慈愛を好いた。
次第に母から女性へ変化していったのはもう遠い昔。
秀吉様と共に戦い、俺たちの世話までしてくれたあのお方をどう嫌いになれようか。
そして母であり恩を忘れてはならないおねね様へ、失礼な言葉を投げる三成が憎かった。
いや、自分よりも何故だか幾分と親しく感じるのが許せなかった。
おねね様の一番は三成やもしれぬ。
そんな妙な感情が渦巻いた。 考えずとも一番は秀吉様であったというのに……。

秀吉様を慕い、おねね様を好いた俺は豊臣を愛し、その為に戦った。
今まで生きていた中で色んな家を見たが、豊臣という家以上に愛ある家があるように感じなかった。
それほどまでに俺は家を愛し、家族を愛した。

三成は俺と違う形であれど、この家を好いていたように思う。
だからこそ関ヶ原で戦い、地に果てたのだろう…。
きっとおねね様が身を引いた豊臣であろうと、あのお方への想いは変わらずに。
しかし俺は秀吉様亡き今、おねね様を傷つけたくない、家を壊すことだけはしたくない。
淀殿の豊臣ではなく、おねね様と秀吉様の豊臣を……。

お互いにあの方へは不器用な想いだと、俺は心の中で笑った。