奪いたいという気持ち

 

あのお方は一体何を考えているというのだ……!
自分の主への妻であるが、三成は声を上げて愚か者と叫びたい気持ちで一杯だった。
床が抜けるやもしれないほど力強く足音を鳴らし、秀吉の元へと足を進める。
冷静を保てずに、襖を乱暴に開けると驚いて目を見開いた主へ行成り苦言をを呈した。

「秀吉様! 何故、伊達政宗とおねね様が一緒に居るのですか!?」
「な……何じゃ、急に三成」
「質問に答えてください!」
「ねねがなぁ……、世話をすると言って聞かんかったんじゃよ。 ねねは言い出したら聞かんからなぁ」
「伊達勢は秀吉様に屈したのですよ。 おねね様がどんなに世話好きだろうと、
彼奴のみ特別扱いなど他の者への示しも付きません」
「そう怒るな三成。 ねねも一頻り世話焼いたら落ち着くじゃろう」
「そんなことでは……!」

ないのですよ! と主に対して怒鳴りそうになった自分に驚いた。
何に対しここまで怒りを感じているのだろうと…。
目を向ければ、自分の主がほとほと弱ったという表情をしていた。

「……失礼致しました」

詫びを入れた後、初めとは違い静かに襖を閉めその場を去る。
ふぅと一息冷えた空気を吸えば、先ほどまでの自分の行為の愚かさに顔を赤らめた。
政宗とねねが一緒に居たときは呆れた声を出すしかしなかった自分が、二人の居ないところでは喚き散らすなど……。
どうかしている……。
眉間にしわを寄せ、額に手を添え考えようも、何も答えは出て来なかった。
何故、あそこまで感情的になっていたのかを。

「三成」

歩廊を行くところ無く歩いていると、酷く不遜な声が届いた。
振り返ると三成は先ほどよりも、眉に深いしわを作ることとなった。

「政宗か」
「今日は邪魔をした。 秀吉様にも政宗が礼をと言うといてくれ」
「……ふん、承知した」
「……あと」
「何だ」
「ねねにも、一応礼を」
「何だと……」

三成の眉がぴくりと動いたのが、政宗にも分かった。
お互い、自分の心の奥底がこんなにも熱くなったのは初めてだと思い、驚く。

「……おねね様はあのようなお方だが、秀吉様の奥方様だ。 様付けをしろ」
「ねねが良いと言うたのじゃ」

冷たい空気が張り詰める。
三成は何が許せないのだろうと、政宗と話しながらも考えていた。
秀吉様の妻を敬称付けしなかったことだろうか、それとも政宗のこの声や容姿、話し方だろうか、それとも……。

「……おねね様の節介はお前だけではない」
「……っそんなこと分かっておるわ、馬鹿め」

母を取られるのが悔しかったのだろうか……。

 

奪いたいという気持ち