高鳴る鼓動が耳障りだった

「くだらない…」
「何で…?」
「ボクは人間のまつりごとに参加する気はないからだ」
「人に感謝するのって気分いいよ?」
「フン、人間にか…?感謝なんて一つもすることない」
「女神様には?」
「関係ないだろっ!あいつにだろうと何だろうと、ボクは人間が作った祭りなんかに参加する気はない!」
「ケルベロスとかさ…」
「…お前、話を聞いていたのか?」

この町では感謝祭という訳の分からない行事があり、それはいつもお世話になっている人に感謝する日だ
とボクの隣に居る奴は言った。
勿論、そんなものの理由を知ったところで、自分には何にも関係ない。
周りの奴らはどうなのかは知らないが、ボクにとってはいつもと変わらない、ただ単純な日々にしかならないからだ。
ケーキを持ってやってくるコロボックル達に、いらないと言い突き返すと、「ちゃんと受け取りなよ。」と隣に居た奴は
ボクに偉そうにも説教を始めた。
だから「くだらない」と言って去ろうとしたのに、そいつはボクの腕を引き、「何で…?」と尋ねてきた。
そんなの決まってる。

ボ ク は 人 間 じ ゃ な い か ら だ

「リオンは、感謝祭に興味ないっていうけどさ、結構みんなリオンに感謝してると思うよ?」
「………、何を言ってるんだお前は……」
「気づいてないだけだよ」
「何の根拠があって、そんなことを…」
「いっつもリオンが出荷してる、薬草とかはアズマさんやディアちゃん達に役に立ってるし、ミルクとかチーズは
カールさんとかすごく役に立ってると思うよ?」
「そんな為にやってる訳じゃない」
「だけど、みんなが助かってるのには変わりないよ」
「フンッ……」

何を言ってもすぐに返してくるのに腹を立て、そいつから目を離すと、フフッと少し傍から笑い声が聞こえた。
「笑うな」と冷たく言い放つが、それは無駄なようで、小さな笑い声がいつまでも続く。
ソッと目を向けると、笑いの主はこちらを見たまま微笑んでいた。
驚いてすぐにまた、反対方向へと顔を戻したが、信じられない言葉にもう一度振り返った。

「照れ屋だね、リオンは…」

「はぁ!?」
「あはは」
「何なんだ…」
「リオンは素直になれないだけなんだよね」
「バカばっかり言ってるな」
「ひねくれ者め」
「…バカか」

言葉を返す度に、あいつは幸せそうに笑う。
ただ純粋な笑顔で。
しばらくその様子を見ていると、急にボクの方を向き直し、ティナは言った。

「もし誰かから貰ったどうする?」

それは少しだけ、真面目な表情。

「別にどうもしない」
「少しもドキッとしない?嬉しいと思わない?」
「一体何が言いたいんだ」
「嬉しいと思わないの?」
「…そんな感情忘れたな。いや、抱いたこともない」
「ふぅ~ん…」
「…何だよ」
「じゃあ、もしかしたら抱いてくれること祈って…。はい、これ」

ポンッと手に押しつけられたのは綺麗にラッピングされた小箱。
その上には、綺麗な文字で「DEAR リオン」とボクの名前が書かれている。
驚いて、顔を見上げると、えへへと照れくさそうにした顔が目に映った。
そして、そいつは少しばかり深呼吸をした後、ボクの目を見て、笑顔を見せた。
突然の表情の変化に、とまどって、いやに鼓動が早くなる。

「ありがと、リオン」
「な…」
「ありがとう」
「な…な…何言ってるんだ!」
「え?いっつもお世話になってるからね」
「別にお前の世話なんかしてない!」
「フフ、してくれてるよ」

「それと、私は結構リオンのこと、好きだよ」

少し間をおいて、先ほどと変わらない表情で、そいつはそう言った。

くだらない……。
ボクは人間じゃないんだ。人間のこいつから感謝されることなんてあるはずない。
好きと言われて嬉しいなんて思うわけない……。
人間になんか何をされたってそんな風に思えない。
だけど、ボクの心臓が解けるように熱いのは何なんだ…。
頭の中でいろいろ考えても、そういう考えが掻き消されてしまうほど、ボクの心臓はうるさくて。

だからだ。
だから、小さな、雫が、頬を、伝った。


高鳴る
鼓動が耳障りだった

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リオンの素直じゃないところを出したかった…!
言葉とは裏腹に顔が赤くなってたり、密かに心臓バクバクだったりしたら最高ですよね!
少し余裕のあるティナと恋を知らないリオンの話でした
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!