おすそ分け

夏の暑い日、今日も町中に元気な声が響く。

その声の主は、まだ小さな牧場を営む牧場主 >

おすそ分け

夏の表情はコロコロ変わる。泣いたり、笑ったり、怒ったり。そんな中、今日は汗がしたたるほどの快晴。
ハヤトは風にでも当たろうかと思い、どこか当てがあるわけでもなくフラフラと歩いていた。
すると後ろの方から、

「ハヤト君ー!!」

と自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
ハヤトにはその声の主はすでに知っていた。こうやって歩いていると、決まって声をかけてくる。
ハヤトはまたかと思い振り返ると、そこには想像通り、ティナがトマトを持ってこちらに向かっている所だった。

「なんだ……?」

もう分かり切っていることなのだが、一応聞いてみる。
するとティナは、太陽にも負けないくらいのまぶしい笑みを浮かべ、

「トマト!たくさん出来たからおすそわけ!」

そう言って、手に持っている物を差し出した。
もうこの会話は三回目だ・・・・。
しかし自分の好きな物をくれると言われることを嫌がる奴なんて居ない。それは無口で感情を表にしないハヤトも同じだった。

「…ありがとう。でも何で俺に…?」

素朴な疑問を投げかける。好きな物をもらうからと言って、いつもくれることに疑問を浮かべない訳がない。
するとティナは、

「いつも建物とか建ててもらって、お世話になってるから。お礼だよ」

と笑った。
それが仕事なのだが…。そう言いかけたがやめることにした。
お礼か…。それなら断るわけにもいかず、ありがたく貰っておこうとハヤトは思った。

「じゃあ、私は行くね」
「あぁ……」

元気よく去っていくティナを見送って、貰ったトマトに目を落とす。
それは、色も形もすごく良く、ティナが一生懸命作った物だと一目で分かった。
あいつも頑張って居るんだな…。
何故だか分からないが、ハヤトの顔に優しい微笑みが浮かんでいた。
それから毎日のように、ハヤトにお礼をしてくるティナ。今日で一週間目………。
今日も会うだろうか。そんなことを思ってしまう。ティナと話すのは嫌ではなかった。
明るい性格をしているが、嫌な感じが一つもないからだとハヤトは思った。
最近、外に行きたくなるのはもしかしたら、ティナと話すことを期待しているのかもしれないな…。
そんな思いを抱きながら歩いていると、また聞こえてくるおなじみの声。

「ハヤト君!!」
「またか…」

そう言う顔には嫌という表情が感じられない。

「そうだよ!!はいっ!トマト」

ティナは一つも変わらぬ笑顔を向けて、差し出す。

「本当に…いつもいいのか?建物を建てるにお礼にしても、その分の金は貰っている…」

嫌なわけではない。でも、牧場の仕事はキツイと聞いたことがある。それが事実であれば、申し訳ない気持ちの方が大きくなる。

「いいのいいの!トマトだけいっぱい出来ちゃうんだよね。だから貰ってくれる方が助かる」
「そうか…」
「あっ…、もしかして迷惑とか…?」

不安げに見上げてくるティナに不覚にもドキリとしてしまう。

「いや、そんなことはないんだが…」
「良かった!!」

パッと表情を明るく変えたティナは、嬉しそうに笑った。

「じゃあ…、また来るね!」

そう言って笑顔を俺に向けた後、彼女はその場を去っていった。
俺は……いや…。
自分の気持ちを確かめるのを止めて、高鳴る心臓を押さえハヤトは家へと帰っていった。

「おう!ハヤトおかえり!」
「ただいま」

家に帰ると、誰よりも元気な声に迎えられた。

「まぁたどっかに言ってたのか?…ん?ハヤトそのトマト、もしかして…?」
「もらった」

そう言うと、心なしかシンの顔がニヤッとしたような気がした。

「ティナか。毎日、お前の好きなトマトをくれるなんてよ、ハヤトのこと好きなんじゃねぇーの?」

―好き― その言葉に反応するように、顔を少し染めたハヤトは、

「そんな訳ないだろ……」

そう言って自分の部屋に戻ろうとする。それを止めるかのように、

「しかしハヤトも貰ってばかりじゃいかんぞ。お返しくらいしなければのぅ」

ウッドが自分の仕事をながら笑う。
それを聞いたか聞いていないか、無言でハヤトは部屋に入っていった。
残された二人は顔を見合わせニヤリとし、

「ありゃ~、ティナのこと好きになりかけてるな」
「わしらもおすそ分けを貰っていることは秘密にしないとな」

と、隣の部屋に聞こえぬように笑った。

 

カーテン越しに光が差し、温かい日差しが部屋の中へと入ってくる。それは今日も良い天気だということの表れである。どこか遠くで鳴くスズメの声も、とてもすがすがしく感じる。

「ふぅー、今日も良い天気!!」

ティナはうーんと背を伸ばして、カーテンを開ける。
するとドアがコンコンと小さく鳴った。
こんなに朝早くに誰だろうと思い開けると、そこにはハヤトがいた。

「あれ?ハヤト君?あっ!おはよう!」

照れたかどうかは分からないが、目をそらし顔を赤くしながら、

「おはよう…」

とぶっきらぼうに返した。

「どうしたの?こんな朝早くに?」
「…………」

しばらく無言のハヤトだったが、ティナの方に顔を向けないまま、手を差し出した。

「これ……」

「いつもトマトを貰っているから…。お礼だ…」

と強引に押しつけられる。
ティナの手には木彫りのペンダント。よく見ると、ところどころ形が違っていて、それが手作りということを表している。

「あっ…ありがとう!!大切にするね!!」

お礼にお礼を貰っちゃったと嬉しそうにしながら、今まで自分に見せてくれた笑顔の中でも、一番のモノを向けるティナに、
どうしていいのか分からず、

「あぁ…」

とだけ答えた。その素っ気ない返事だけでも喜ぶティナに、隠し通してきた気持ちに確信がつき、俺はこいつ
のことが好きなんだなと、情けないほど感じるハヤトだった。

夏の暑い日、今日も彼女の元気な声が俺の心に響く
その声の主は、まだ小さな牧場を営む牧場主

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おおお、お粗末様でしたーー!!!
初の牧物小説です><
すごく難しくて、試行錯誤の繰り返しでした
ハヤトは陰ながらいつもティナにドキドキしていればいいと思います!
でも、結婚までのハヤトの感情表現はそんな感じでしたよね!
青い羽根を貰ってから素直になったって感じでした・・・よね?