今日はとても素敵な日だと思った。
世間ではクリスマスという聖なるイベントらしい。
だけどこの町では、星夜祭ととても神秘的で美しい名前のイベントがある日でもある。
聖なる教会
この日、私は初めてのこのイベントに胸がワクワクして早く起きてしまった。
すっかり冬の季節が訪れ、パジャマの上に上着を着ておかないと朝の寒さには耐えられなかった。
窓を開けるも、まだ早朝ともあり真っ暗で本当に朝なのかと疑いたくなってしまう。
そして、こんなに暗い時間帯に起きてしまう自分の好奇心に少しだけ笑みがこぼれた。
まだ少し、星が残っている。
「今日も良い天気だね。 きっと」
そう呟いて、暖炉に火をつけた。
徐々に燃え上がる暖炉から少し離れたところに仕事着を置き、ある程度暖まったところでそそくさと着替えた。
知らずのうちに、「うう、寒い…」と言葉を発してしまう。
外に出るとやはり肌を突き刺すような寒さを感じ、思わず身震いをしてしまった。
作物が作ることが出来ないため、早速動物小屋へ行こうとすると、赤いポストから少しだけ出ている手紙。
こんなに朝早いのにと驚きながらも、ポストを開け手紙の封を切る。
【クレアさんへ
えっと…なんて書いて良いのか迷ったんだけど……。
今日、カーターさんが教会を少しの間だけ二人でいいよって言ったんだ…。
夜の10時くらいなんだけど。
あっ!ごめん、なんかおかしな文章になってて。
その言いたいことは、今日10時に教会に来てくれないかなってことなんだ
じゃあ、読んでくれてありがとう。 待ってるから
グレイ】
慣れない風に書かれたその手紙は、とても心を温かくするのには充分すぎるほどで、
先ほどまで体が冷えてしょうがなかかったというのに、今ではほんわりとした温もりが
全体へと廻って行くのが自分でも分かった。
そっとその温もりを胸に握りしめた後、うーんと背伸びをして牧場の仕事へと移ったのだった。
仕事が終わったのは、夕方。
今日は一番の冷え込みらしく動物たちの動きが鈍くて少しばかり作業に手間取ってしまったからだ。
でも、ブラシをした後やエサを上げたときの嬉しそうな表情を見ると、やはりこの仕事をしていて良かった感じる。
仕事終わりに一杯だけ自分へのご褒美を贈ろうと思い、ダッドさんのお店に顔を出すことにした。
町はどこかしら、みんなの温かなぬくもりで包まれている気がする。
自分のその中に入れているのだと思うと、本当に嬉しいことだと頬が緩んだ。
「ダッドさん、ランちゃんこんにちは~!」
「あっ、クレアさん!こんにちは」
「おう、こんにちは」
扉を開くと、ふんわりと良い匂いと共に暖かい空気が流れる。
(やっぱり、仕事を終えた後はここだなぁ)
そう思いながら、イスに座るとランちゃんが笑顔でオーダーを取りに来た。
「クレアさん、何にする?」
「え…と、今日はジュースにしておこうかな」
「え? 今日、これから何かあるの?」
「ちょっと、ね」
「何々~! 気になるなぁ…ってそういえば、今日は星夜祭だったね。 クレアさん、誰かに誘われてるんでしょう~!」
ランちゃんはニコリと笑うと、肘で優しく私を突いてきた。
「隅に置けないねぇ」なんて言われちゃうと、何だか気恥ずかしい。
それからと言うもの、誰に誘われたか、どんな感じで誘われたのかなどと色々質問されてしまい、
最初はためらったものの最後には押しに負けてしまいグレイに誘われたことを話してしまった。
さすがに、手紙の内容は話せなかったけれど…。
するとランちゃんは、尚更笑顔になって頑張ってねと言って、いつの間に持ってきたのかパインジュースをコトリと置いた。
恥ずかしさに負けて、目の前にあるジュースを一気に飲もうとコップを持って上を向くと、また恥ずかしさに顔を赤らめてしまう。
「やぁ、クレアさん…」
「グ…グレイ…、こ、こんにちは」
「…」
「…」
いつから居たのだろう…。
何だかとっても恥ずかしくて、俯いたままジュースを小さく飲み干した。
ランちゃんとダッドさんが、離れた場所で笑っている顔が横目に移り、何だか居ても立ってもいられなかった時、
「まだ少し早いけど、クレアさん行こう!」
そう真っ赤な顔をしてはにかむグレイが、ドアの近くで手を差し出して私を呼んでくれた。
私もきっと彼に負けないくらい赤い顔だったんだろう。
その証拠に、体がすごく熱かった。
そっとその手に近づくと、ぎゅっと力強く手を握ってくれた。
「ダッドさん、お金っ…!」
「はは、今日はおごりでいいよ。 行ってきな」
その言葉をスタートのように、私とグレイはドアを開け、すっかり暗くなった夜の町を駆けだした。
私たちが今日出会う約束した場所へと。
火照った体には、夜の冷たさがとても心地よくて訳もなく、笑顔になる。
着いた頃には二人とも息を上げていたけど、可笑しくて恥ずかしくて色んな気持ちが混ざり込んで、お互い声を上げて笑った。
「格好良く決めるはずだったのにさ!」
「私も! もっとロマンチックに待ち合わせ場所に行こうと思ってたのに!」
「でも、良かった!」
「え…?」
「クレアさんが来てくれた!」
「当たり前だよ…!」
そう言うと、また彼は湯気が立つくらい顔を赤くして、「ありがと…」と小さな声で呟いた。
その後に、また私の手を引いてこっちだよとステンドグラスの方へと導く。
夜の教会に入ったのは初めてで、何だか胸がドキドキした。
手を引きながら、グレイは教会の灯っている火を一つずつ消していく。
それを見て、思わず「いいの?」と尋ねると、くすっと笑って「カーターさんが今日だけはって許してくれたんだよ」とご機嫌な様子で答えた。
最後のロウソクを消す前にグレイは、
「ここを消すところだけ、クレアさん目を瞑っててくれない?」
「え?」
「お願い!」
「…うん、いいけど…」
どうにもグレイの考えていることが読み切れず、言われるがままに目を瞑ると、
静かな空間にグレイのふぅとロウソクの消す音だけが響いた。
そして、先ほどよりも明るくだけど少しだけ紳士的な声で、
「クレアさん、どうぞ…」
これは目を開けても良いという合図で、恐る恐る目を開けると、そこにはいつもと別の世界が広がっていた。
先ほどまで真っ暗だった教会が、鮮やかな赤、青、黄色、たくさんの綺麗な色で埋め尽くされていたのだった。
それはもう、言葉が出ないほど神秘的で美しい光景。
目を見開いたまま、言葉を出せずにいた私にグレイは心配そうな声を出す。
「どう…?」
「…っ、き、綺麗だよ! すごく、何だか言葉に出ないほど…!」
「良かった! 星夜祭ってすごく星が綺麗に光る日だから、きっとここのステンドグラスは
もっと綺麗に光るんだろうなって思って、カーターさんにお願いしたんだ!」
「とっても嬉しいよ。 ありがとう!」
私の為にここまでしてくれた、そしてこんなに素敵な美しい光景が見れたことに胸がいっぱいになって、
思わずありがとうと何度も言いながらグレイの胸へと身を預ける。
「ク…クレアさん!?」
ビックリした声を聞きながら、私は少し笑った。
嬉しくて、恥ずかしくて、可笑しくて。
そして静かに耳を澄ますと、グレイのトクトクと早く脈打つ鼓動が聞こえてきた。
それと同時に、聞こえるかしこまった声。
「前から言いたかったことなんだけど…クレアさん、僕と……」
その後の言葉を聞いた後、鼓動が早くなるのは私の番だった…。
Fin