I LOVE YOU

彼女の作った話は世界で一番。
優しい夢へと誘う船に乗っているかのような、そんな気分にさせてくれる。

LOVE YOU

「マリー、こんにちは」
「ピート君! こんにちは。 今日は仕事早く終わったんだね」
「うん、この寒さだと作物も採れないしね。 洞窟も今日はお休み」
「そうなんだ、でも休むことも必要だから良かったんだよ」

人一人が作業できる小さめのカウンターの中から、少しだけ微笑みながら彼女は言った。
しかし忙しいのか、 「自由に見ていってね」 と言ったまま、彼女はカウンターの中の本をまたいじりだした。
本当は君と話しに来たなんて、忙しそうな彼女に言えるわけもなく側から離れるととりあえず二階に上がってみた。
あまり人の居ない図書館は静かで、自分が手に取った本のページを開く音が聞こえるほどだった。
紙の擦れた音が、心地よい気持ちにしてくれる。
どんなに古い作品でも彼女が綺麗にしてくれているおかげで紙の質が衰えてないからだと思う。
そういう所からも、いかに本のことを大事にしているかが分かる。

(あ、そういえば…)

手に取って眺めていた王道ファンタジーな本の存在のおかげで思い出したことがある。
マリー自身が毎週のように見せてくれていた自作の本の存在。
今日、折角だから続きを見せてもらおうと下に降りる時にひときわ目立った声。

「マリーだけだよ、こんな話に付き合ってくれるのは…」
「だって、グレイ頑張ってるんだもの。 これからも頑張れば素敵な物が作れるようになるよ」
「…うん、ありがと。 元気出た、じじいとこ戻るよ」
「頑張ってね」

(これは…、下に行かない方がいいかな)

ドアの閉まる音がした後、少しだけ気まずい空気が流れた…ような気がした。
一足だけ押した足をソッと、上へと戻そうとするとクスクスと笑い声が聞こえた。

「盗み聞き…?」
「へ…?」

焦って下を覗くと、綺麗な黒い髪の毛が日に当たって輝いて、女神のように見える彼女が自分の方へ顔を向けていた。
笑顔だから尚更、可愛らしく…そしてバレていたことが恥ずかしい。

「マ、マリーってば気がついてたのか」
「ふふ、これでも耳がいいんだよ」
「折角、僕が気を使ったってのに…、意味なかったなぁ」
「何で気を使うの? 別に降りてくれば良かったのに…」

そんなこと言ったら、グレイが可哀想だぞと思いつつこの天然さに何度救われているか分からない。
きっと、マリーが人の気持ちに敏感な子だったら自分なんかはとっくの昔にバレちゃっているからだ…。

「本当に良かった…」
「ん? 何が良かったの?」
「い、いや、何でもないよ。 それよりもさ、今日は見せてくれないの? マリーの本」
「えっと、最後のね、言葉だけ全く思いつかなくて…」
「え…? ってことは最終話ってこと?」
「…一応はね。 でも最後にしっくり来る言葉が見つからないの。 だから、今日は無理…かな。ごめんね」

カウンターの上に、数十枚の原稿用紙をそろえながら彼女は苦く笑った。
自分にはマリーの中の本の世界というものが、どういうものか分からないけれど、どうにか彼女の助けになりたい。
それに、様子を見ているといつまで経っても完結しないような気がする…。

「ねぇ、それ見せてよ。 もしかしたら僕がいい案を出せるかもしれない」
「えぇ!? そ、それはダメよ。 だってその…これは」
「アドバイスくらいはいいだろう?」
「……う、ん、分かった」

彼女は何かを決心したかのように、そっと僕に原稿用紙を渡してきた。
それはいつもとは違う、短編の話だった。
それに、恋愛の小説。
毎日自分に会いに来てくれる男の子にだんだんと惹かれていく女の子の気持ちを表したもので、
読み進めていくうちに僕も何だか世界に入ってしまったようだ。
彼女の物語は、人を魅了する効果があると思う。
しばらくすると最後だと思われる一文だけ、空白が残っていた。
でも、空白の場所には括弧だけは書かれている。

「最後をセリフで締めようと思ってるの」
「それってやっぱり告白…だよね?」
「…う、うん。 でも、私そういうの言ったことも言われたこともないから…」

すると彼女は顔を赤くして俯いた。
もしかしたら、これは女神様がくれたチャンスだったりするのかな…。

「マリー、僕だったらね。 こう言うよ、目の前の君に…」
「え?」
「I LOVE YOU」

Fin