クロスロード
「ねぇ、鈴花さん」
「何?」
「ここに『十』って言う字があるとしてね」
「うん」
突然読んだかと思うと、彼は筆をとり、紙の上に「十」と言う字を書き出した。
「これを道に例えたとするじゃん」
「うん」
そして一番上に、私たちが一番誇りに思っている人の名前を書く。
「一番上が近藤さん。それと、土方さんね。あとは死んじゃった新撰組のみんなとか、沖田さん」
「うん」
「下が敵対になってた、薩摩藩とか土佐藩」
そう言って、十の字の下に薩摩藩と土佐藩と書く。
真面目にその字を書いたことがなかったためか、少しだけ不慣れな字。
「右側に途中、新撰組を離れた伊藤先生や御陵衛士のみんな。それと…、俺ね」
彼は、最後の一言だけちょっとだけ言いにくそうに小さく呟いた。
その言葉にも一言「うん」と相づちを返す。
「それで最後に、新八さんや左之さんが左側」
私たちが静かに暮らしていた場所へ、風の噂で耳にした、永倉さんと原田さんの訣別。
だけど平助君は、お互いに思い合っての結論だと言っていたのを思い出す。
「全員がこの道の先を目指して、歩いた結果に行き着く先はどこだと思う?」
今まで話していたことの結論とも言える質問を、私へと投げかける。
「う~ん……、難しいな…」
そう言うと、彼は少しだけ微笑んだ。
「じゃ、俺の考え言ってみても良い?」
「うん、いいよ」
「いつか来るかもしれない、平和…だと思うんだ」
「…?」
私が分からないという表情をすると、慌てて十の字を指さし、私の顔を見て話し出す。
「ほら、このままみんなが反対方向に進んだら、一生みんなの想いが一緒になることはないんだけどさ。
だけど、こうみんなが十の字の真ん中を目指して歩いて行ってたときに辿り着くのは、ここだからさ」
そう言うと、十の字の全ての線の混じり合った真ん中を指さす。
「ここの場所にきっといつか辿り着くって思ってるんだ。そこが平和…かなって…。その……思うん…だけど…」
最後の最後で、少し照れたように言葉を濁しながら頭をかく。
そんな彼を見て微笑みながら、
「私も、平助君の考えいいと思うよ」
「ホントっ!?」
「うん」
「へへ、話して良かった。鈴花さんだったら、分かってくれるんじゃないかって思ってたんだけど、不安だったから」
「いつの日にか平和になったらいいよね。この子が剣を持たなくてもいいような国に…」
それぞれが歩いている道が、どうかどうか行き着くところの同じ十字路でありますように。
遠い未来を祈って、そう心で呟いた。
以前サイトの拍手に置いていた作品です。