アテンションプリーズ

 

アテンションプリーズ

「何をそんなに警戒してるんだよ…」
「警戒したくなる気持ち、分かりませんか…?」
「分からないな」
「…、ロクスがそんなに優しいのは可笑しいです」

ロクスの顔を怪訝そうに見ていたラビエルは、そう言った。
その言葉に少しだけ顔を濁す。

「何故、僕が優しかったら警戒するんだ?喜ぶことじゃないか」
「優しさが不自然ですよ…」

酷い言われようだなと、彼は苦笑いをした。

「ただ、花束を渡して感謝を述べただけだろう…?」
「今まで、そんなことされた覚えがないです」
「だから、今日初めてしたんじゃないか。何事も初めがないと始まらないものさ」
「………そうですね…」
「そんなに僕が信用出来ないということか…」

「信用」という言葉は彼女にとって、弱点とも言えるモノだと知っていた。
だからこそ本当は気にしていないけど、この言葉を使う。
するとやはり自分の思った通り、彼女は眉をへの字へと変えた。

「そ…そうではありませんが…」
「じゃあ、何だよ」
「…………」
「いいさ、別に。君の言葉なんか気にしちゃいないからな」
「……え?」
「だけどこれだけ聞かせてくれ、ラビエル」
「はい……」

自分よりも背の低い彼女に合わせて、少しだけ膝を屈める。

「僕は他の勇者よりも信用ないか…?僕が勇者だったら迷惑か…?」

何を言ってるんだろうな。聞いておいて、心の中で笑った。

「迷惑じゃありませんよ。ロクスが勇者で居てくれて、私は幸せです」

見たかった笑顔を、彼女は見せてくれた。
その表情に自分の気持ちが今にも言葉に出そうで、怖かった。

「そうか…。今日はそれだけ聞けたら満足かもな。おやすみ、ラビエル」

そう言って、去り際に頬に触れるだけのキスをする。
すぐに彼女の横を横切り、ドアの戸を開けようとすると、反応に遅れた叫び声が聞こえてきた。

「ロクス!?ふ…ふざけないでください!」

顔を真っ赤にした彼女を見て、少しだけ自分の心に出来る優越感。

「警戒は、最後までしないといけないな、ラビエル。今度からは注意することだ」
「そ…そんなこと…!」
「じゃあな、おやすみ」

最後まで彼女の言葉を聞かずに、部屋の外に出る。

部屋の戸を完全に閉めきると、真冬の季節なのにやけに涼しかった。


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以前、サイト拍手に置いていたSSです。