「ねね殿、如何なされた……」
そう低く小さくも力強い声がねねを呼ぶ。
それを片耳に入れ、自分にしては珍しく顔を向けることをしなかった。
それほどまでにも、自分は自身を保てないと言うのだろうか。
こんなにも弱々しい姿をしているのを昔の自分に見られたならば、きっと怒られるだろう。
そう思うと、苦笑が漏れた。
「人っていうのは分からないねぇ」
いつ何処でどうなるやも分からない。 自分達でさえも。
そんな意を含めた物言いだった。
それは影の者でも同じこと。
それ故、尚のこと言葉が低くなる。
「悲しんでおられるか……。 お心察し致す……」
「やだよ。 半蔵らしくもない」
そこでやっとねねが半蔵の方へと振り向く。
酷く哀しい表情をした顔だった。
隠しているつもりなのだろうが、其れすら危ういもので、一つ言葉を間違えれば崩れそうな表情。
「ねね殿は今の今まで少し世話をしすぎた」
「そうかな」
「暫し休息を取られるが時期……」
「……そうなのかねぇ」
「また、力戻るとき世話を焼けば宜しい」
「……半蔵」
「……」
暫く間が開く。
それは先ほどとは違い、少しばかり心地よいもの。
そうだと信じたい。
そう半蔵は思った。
「ありがとうね」
「……影に礼いらず」
そうねねの方から視線を外し呟くと、わずかな温かい笑いが聞こえた。
支えるとは